役員と従業員の兼務における労働時間の考え方
企業の組織運営では、取締役や執行役員が部門責任者を兼ね、一般の従業員と同じ職場で業務を担うことがあります。このような「兼務役員」は、会社法上の役員としての職務と、労働契約に基づく従業員としての職務をあわせて行うため、労働時間の管理方法が分かりにくくなりがちです。
役員であるという肩書だけで、労働基準法上の労働者から外れるわけではありません。実際の職務内容、指揮命令関係、勤務時間の拘束、報酬の性質などを確認し、従業員として働く部分があるかを実態に即して判断する必要があります。
時間外労働の上限規制、割増賃金、年次有給休暇、労働安全衛生上の健康管理は、肩書ではなく働き方の実態に左右されます。役員兼務者を適切に区分できなければ、勤怠記録や36協定の運用、賃金計算に連鎖的な問題が生じます。
役員と労働者を区分する基本的な視点
取締役などの役員は、会社との委任関係に基づいて経営に参加する立場です。一般に、代表取締役や業務執行を広く決定できる取締役は、会社から具体的な指揮命令を受ける従業員とは異なるため、その役員業務に使った時間を労働時間として扱わないことがあります。
一方、取締役であっても、特定の部署で担当業務を行い、上司の指示を受け、出退勤や勤務時間の管理を受けている場合があります。この部分については、労働者性が認められる可能性があります。肩書、役員報酬、社内規程の記載だけで判断せず、日々の業務運営を確認することが重要です。
判断材料には、採用や解雇への関与、業務上の裁量、勤務場所の指定、遅刻や欠勤への統制、報酬の決め方などが含まれます。役員会で経営判断を行う時間と、部下として営業活動や製造作業を行う時間が明確に分かれている場合には、それぞれの性質を記録しておくと、後の説明がしやすくなります。
兼務役員に生じる労働時間の範囲
兼務役員の勤務時間を考えるときは、役員業務と従業員業務を形式的に二分するだけでは足りません。実際には、会議の一部が経営判断に関わり、別の部分が担当部署への業務指示に当たるなど、両方の性格を含むことがあります。そのため、職務記述書や権限規程で担当範囲を具体化することが求められます。
従業員としての業務について、会社の指揮命令下に置かれている時間は労働時間に該当します。始業前の準備、終業後の報告、会社から指定された研修、業務上必要な移動なども、実態に応じて算入の要否を検討します。役員会への出席時間を一律に除外する運用は、実際の内容と合わない場合があります。
海外拠点との会議や外国人スタッフとの調整が含まれる企業では、勤務時間帯が複雑になりやすくなります。就業管理と組織上の役割を整理する際には、海外勤務の関連情報も参照しながら、時差勤務や出張中の指揮命令系統を確認すると、記録の抜けを防ぎやすくなります。
勤怠記録と指揮命令の整理
労働者に該当する部分がある場合、会社には労働時間を適正に把握する責任があります。タイムカード、ICカード、パソコンのログ、入退館記録、上司による確認など、客観的な方法を基本とし、自己申告だけに依存しない仕組みが望まれます。役員だからという理由で勤怠記録を作成しないと、従業員業務の時間まで把握できなくなるおそれがあります。
実務では、役員業務と従業員業務を毎日完全に切り分けることが困難な場合もあります。その場合は、主な担当業務、指揮命令者、勤務予定、会議の目的を月単位で整理し、実態を説明できる資料を残します。従業員としての所定労働時間を定め、時間外労働の申請や承認手続を適用する方法も有効です。
始業時刻前のメール対応や休日の緊急連絡を、役員としての活動なのか従業員業務なのか曖昧にしたまま放置してはいけません。業務内容、対応時間、会社からの指示の有無を記録し、勤務実態に応じて労働時間として集計します。労働時間の算定方法については、実務解説も確認し、社内の勤怠ルールと整合させることが大切です。
時間外労働と36協定の扱い
兼務役員の従業員部分に時間外労働が発生する場合、労働基準法上の上限規制を検討する必要があります。法定労働時間を超えて働かせるには、原則として36協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。役員としての長時間会議が、実質的に従業員業務の延長であれば、その時間も含めて判断することになります。
36協定では、時間外労働を行う業務の種類、対象労働者、延長できる時間などを定めます。兼務役員を対象から除外する場合は、その人が従業員としての指揮命令を受けていないのか、対象業務が本当に存在しないのかを確認してください。単に役員名簿に掲載されていることだけを理由に除外すると、実態との不一致を招きます。
時間外労働の上限を管理する際には、月45時間、年360時間を原則とする一般則に加え、特別条項を設ける場合の限度や健康確保措置にも注意が必要です。複数の部署をまたいで勤務する兼務者は、部門ごとの勤怠集計ではなく、会社全体で実労働時間を合算して管理します。
割増賃金と休暇・健康管理
従業員としての労働時間が法定労働時間を超えた場合、時間外割増賃金の支払いが必要になることがあります。深夜労働や法定休日労働に該当する場合も、役員報酬が支払われているという事情だけで当然に除外できるわけではありません。従業員部分の賃金を役員報酬と区分し、計算基礎や支給項目を明確にしておくことが重要です。
年次有給休暇についても、従業員としての雇用関係が認められる場合は付与要件を確認します。役員業務の予定がない日に従業員業務だけを休むという扱いが可能か、会社の職務分担や就業規則を踏まえて整理します。育児休業や介護休業などについても、対象となる雇用関係があるかを個別に確認し、制度利用を妨げない運用が必要です。
関連制度を社内で整理する際には、休業制度の整理のような資料も参考になります。加えて、長時間労働者への医師による面接指導、健康診断、ストレスチェックなど、安全配慮義務と労働安全衛生法上の対応も、実際の労働時間を基礎に考える必要があります。
社内制度に落とし込む確認項目
制度を整える際は、役員兼務者ごとに、役員業務と従業員業務の範囲、直属の指揮命令者、勤務時間、賃金の構成を文書化します。取締役会議事録や組織図だけでは日常業務が分からないため、職務分掌、雇用契約書、就業規則、勤怠システムの設定も相互に確認します。
判断が難しいケースでは、人事担当者だけで結論を出さず、法務や社会保険労務士などと実態を検討します。役員報酬と給与を別々に処理していても、勤務実態がそれに対応していなければ、未払い賃金や割増賃金の問題につながります。過去の勤怠記録を点検し、運用と規程のずれを早期に修正することがリスク低減になります。
確認を進める際には、次の項目を一つずつ点検すると、部署ごとのばらつきを抑えられます。
- 従業員として担当する業務と役員として担う職務を区分しているか
- 従業員業務について、具体的な指揮命令者を定めているか
- 始業・終業、休憩、休日、時間外労働を客観的に記録しているか
- 36協定の対象者と時間外労働の集計範囲が実態に合っているか
- 給与、役員報酬、割増賃金の計算方法を明確にしているか
- 年次有給休暇や休業制度の適用可否を個別に確認しているか
- 長時間労働や健康上のリスクを会社全体で把握しているか
全国の担当者が同じ基準で運用できるよう、管理職向けの研修と定期的な監査も有効です。厚生労働省の委託事業による説明会では、働き方改革関連法、時間外労働の上限、割増賃金、年次有給休暇などを体系的に確認できます。地域別の開催日程を探す場合は、中国・四国の開催情報のような会場・オンライン情報も活用し、兼務役員の勤怠管理を自社の実態に合わせて見直すことが重要です。